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欲しくなった種芋
終戦直後、我が家は極端に貧乏だった。父親はシベリア抑留兵と
してソ連に拉致され、満州から命がけで子供を守って帰国した母親
は細腕の縫い仕事で一家4人の生活を支えていた。よその家庭では
闇市から食料品を購入してくる余裕があったが、我が家では配給で
食いつないでゆくのが唯一の生活手段であった。ジャガイモばかり
が配給された時期があった。夕方、私が外で遊んでいると妹が「兄
ちゃん、ジャガイモが煮えたよ」と迎えにくる。母は「ご飯ですよ」
と妹に迎えにやるのだが、ジャガイモしかないことを知っている妹
は「ジャガイモが煮えたよ」と迎えにくるのである。
皮付きのまま塩ゆでされたジャガイモは青っぽく、指先で皮をむ
いて塩をつけて食べるのだが、これがなんともエグイのである。
エグイという表現を知らぬ人たちが多くなったが、苦さの上に青臭
さを加えたようななんとも表現のしようのないまずさである。
空腹感から1個はなんとか食べられても2個目はとても手がでな
い。そんな状態が続くと家族中がやせ細っていくのが目に見えるよ
うだった。そんなある日、皮が茶っぽくて土色のジャガイモが出て
きた。うまい!と出された全部を食べ、余分がないかと妹の入れ物
を盗み見る始末。まったくイグサがなかった。「これなんちゅうジャ
ガイモ?」と母に聞くと「これは男爵芋といって男爵さんが北海道
で作り出されたジャガイモだ」と母は説明した。「ダンシャクさん
という名の人が作ったのか」と妙に感心したのを覚えている。ダン
シャクというのが人の名前でなく爵位だと分かったのは大人になっ
てからのことである。
そのうち父親も辛うじて帰還。日本の戦後復興に伴ってジャガイ
モも主食の地位から副食に転じ、あの青色のエグイ芋から遠ざかっ
た。ジャガイモが大嫌いだった私も男爵だけは大好きで、カレーに
良し、煮付けに良しで好物になっている。
定年退職したある日、「北あかり」なるジャガイモを頂戴した。
妻はそれをサラダにしたり肉じゃがにしたりして私に食べさせたが
これが旨い。特にサラダは最高で、むっちりしたホクホク感があり、
身の黄色がサラダに良く似合う。試しに茹で上がったものに塩をふ
りかけ食べてみたが、これまたホクホクとした歯ごたえがあり、栄
養になるな、と思った。
ジャガイモ料理はパリやロンドンでも食べたが「北あかり」のサ
ラダには劣る。ジャガイモの本場、ドイツでもジャガイモ料理を食
べてみたいと思うが、これはまだ果たしていない。聞くところによ
ると「北あかり」はあの男爵をもとに品種改良して作られたジャガ
イモだそうな。「北あかり」が山陰のような暖地でできるかどうか
知らないが、今、密かに計画している10坪農園を始めたら「北あ
かり」の種芋を送ってもらおうかな、と考えている。
written by 松本洋光 at 2007年12月10日 14:39
















































