《環境保護を標榜(ひょうぼう)する米団体「シー・シェパード(SS)」のメンバーによる日本の調査捕鯨妨害事件で、艦船侵入や傷害など5つの罪に問われたSS抗議船「アディ・ギル号」元船長、ピーター・ジェームス・ベスーン被告(45)の第2回公判が28日午前10時1分、東京地裁(多和田隆史裁判長)で始まった。この日の証人2人が被害の状況をどう語るのか注目される》
検察官「SSのゴムボートからランチャーで酪酸入りの瓶を撃ち込まれたときの状況を聴いていきます」
《起訴状によると、ベスーン被告は今年2月11日、南極海で航行中の調査捕鯨団の監視船「第2昭南丸」に酪酸入りの瓶を放ち、異臭を拡散させて業務を妨害、乗組員1人にけがをさせた。同月15日には、第2昭南丸に水上バイクで接近、防護用ネットをナイフで切り、船内に不法侵入するなどしたとされる》
検察官「当時、君は妨害排除業務についていましたね」
証 人「はい」
《妨害排除業務とは、SSのメンバーが船に乗り組むのを阻止する業務のようだ。ベスーン被告は手のひらを開いたり、両手を握ったりと少し落ち着きがない》
検察官「左舷側に立って海の方向を見てSSのゴムボートを見張っていましたよね」
証 人「はい」
《ここで検察官が法廷内の大型モニターに第2昭南丸の見取り図を映し出す。左舷側の図面と真上から見た図だ》
検察官「君がいた位置を指で示してください」
《証人は真上から見た図の左舷中央のやや船首よりを指さした。ベスーン被告はモニターと証人を交互に見つめている》
検察官「船尾寄りにはAさん、Bさん、Cさん(公判ではいずれも実名)がいましたね」
証 人「はい」
検察官「どのぐらい離れていましたか」
証 人「10メートルぐらいだったと思います」
検察官「AさんとBさんはインパルス銃、Cさんは竹の棒を持って立っていたんですよね」
証 人「はい」
《インパルス銃とは、本来は消火器として使われるが、勢いよく水を放って侵入してこようとする者を防ぐことにも使用される》
検察官「服装は迷彩柄の合羽(かっぱ)にオレンジ色の救命胴衣、手袋をして長靴をはいていましたね」
証 人「はい」
検察官「手には竹の棒を持っていた?」
証 人「はい」
検察官「竹の棒は何のために使うのですか」
証 人「(誰かが)乗り込もうとしたときに使います」
検察官「乗り込むのを防止するため?」
証 人「はい」
検察官「頭にはヘルメットをかぶっていましたね。前に上げ下げできるプラスチック製の透明のガードが付いていましたね」
証 人「はい」
検察官「どの辺りまで下げていましたか」
証 人「鼻の辺りです」
検察官「どうして下げる必要があるのですか」
証 人「目を守るためです」
検察官「どうして一番下まで下げなかったのですか」
証 人「目が隠れればそれでいいと思っていました」
検察官「SSのゴムボートは左舷側から右舷側に回り、さらに左舷側に回り込んできましたね」証 人「はい」
検察官「君以外に対応した人がいましたね」
証 人「AさんとBさんがインパルス銃で水を撃ちました」
検察官「水はかかりましたか」
証 人「かかっていません」
検察官「風は?」
証人「船首から船尾側に吹いていました」
検察官「君は風上にいたことになりますね」
証 人「はい」
《弁護側が証人の負傷の原因がインパルス銃の水がかかったことにあるのではないかと疑義をはさんでいることに対抗しての質問とみられる》
検察官「ボートまでの距離は?」
証 人「15から20メートルぐらいです」
検察官「被告は乗っていましたか」
証 人「はい」
検察官「被告は何をしましたか」
証 人「ランチャーを構えました」
検察官「どう思いましたか」
証 人「危ないと思いました」
検察官「何が危ないと?」
証 人「酪酸とか塗料の入った瓶、リンゴを撃ち込まれると思いました」
検察官「どうしてそう思いましたか」
証 人「今までも投げ込まれていたので」
検察官「リンゴが撃ち込まれるとは?」
証 人「リンゴが実際撃ち込まれた話を聞いたからです」
《SSのボートから捕鯨船団の船にリンゴが撃ち込まれたのは、事件から2カ月前の平成21年12月のことだったという》
検察官「危ないと思ってどうしましたか」
証 人「コンパニオンの下に隠れようと思いました」
《コンパニオンはブリッジの下にあり、外からは隠れる部分を指すようだ。検察官にうながされ、見取り図のうち、証人が立っていた位置の近くのブリッジ側を指さした》
裁判長「範囲に幅があるようなのでもうちょっと特定してください」
検察官「マストの真下辺りですね」
証 人「はい」
検察官「コンパニオンには何を置いていましたか」
証 人「ゴミ箱とかです」
《ここで聞き取れなかった通訳が聞き返す》
裁判長「証人はもうちょっと大きな声でしゃべってください」
《裁判長が事務官にマイクの位置を再調整させた。検察官が「緊張しているのかな」と証人に問いかけた。ベスーン被告はじっと証人を見つめている》
「燃えるような激しい痛み」 失明の恐怖に襲われた証人
検察官「被告がランチャーを構えたとき、どうしようとしましたか」
証 人「コンパニオン(ブリッジの下にある構造物)の物陰に隠れようとしました」
検察官「実際に隠れましたか」
証 人「隠れませんでした。隠れようとしましたが、止まりました」
検察官「どうして止まったのですか」
証 人「ランチャーの筒先がブリッジに向いていたからです。狙いが外れ、自分に当たるかもしれないと思いました」
検察官「それでどうしましたか」
証 人「ブリッジを見上げました」
検察官「ブリッジを見上げたとき、視界を何か通り過ぎましたか」
証 人「はい」
検察官「何が通り過ぎましたか」
証 人「暗くて赤色っぽい物が飛んでいました」
検察官「当時、何が飛んだと思いましたか」
証 人「分かりませんでした」
検察官「通り過ぎた物の速度は?」
証 人「速かったですが、目では追えました」
検察官「なぜその物が通り過ぎたと思いましたか」
証 人「ベスーンがランチャーで撃ったと思いました」
《○○さんは裁判長の方を見ながら、はっきりとした口調で証言した》
検察官「ベスーンが…、失礼」
《検察官も○○さんの証言につられ、「被告」を付けるのを忘れ、呼び捨てにしてしまう。ベスーン被告は○○さん、検察官を上目遣いに見つめながら、持っていたノートに何かを書き記している》
検察官「被告が何かを撃ったところを見ましたか」
証 人「見ていません」
検察官「ランチャーの発射音は聞きましたか」
証 人「聞いていません」
検察官「視界を物が通り過ぎた後、何かありましたか」
証 人「ボートから喜ぶような声が聞こえました」
検察官「喜ぶような声とはどのような声でしたか」
証 人「『ヒャッホー』という感じの声が聞こえました」
《歓声を聞いた証人はベスーン被告が乗るボートの方を向こうとした。だが直後に異変が起こったという》
検察官「何が起きましたか」
証 人「目が開けられず、痛くなりました」
検察官「痛かったのは目だけですか」
証 人「両ほほも痛くなりました」
検察官「それから何かありましたか」
証 人「酪酸のにおいがしました」
検察官「どう思いましたか」
証 人「(自分に)酪酸がかかったと思いました」
検察官「痛くなったのは両目ですか」
証 人「両目です」
検察官「どんな風に痛みましたか」
証 人「右目の方は燃えるような、激しい痛みがありました」
《当時の恐怖を語る○○さん。ベスーン被告は通訳の言葉に耳を傾けながら、傍聴席の後方にある時計の辺りを見つめる》
検察官「両目は開けられましたか」
証 人「できませんでした」
検察官「両ほほはどのように痛みましたか」
証 人「ヒリヒリする感じでした」
検察官「視界を物が通り過ぎてから、目やほほが痛むまでの時間はどれくらいありましたか」
証 人「1秒か、2秒ぐらいでした」
検察官「『酪酸のにおいがした』と証言していましたね?」
証 人「はい」
検察官「以前にも、かいだことがありますか」
証 人「はい」
検察官「どんなにおいでしたか」
証 人「くさいです。ブルーチーズのにおいを強烈にした感じです」
検察官「ほか(のにおいい)にたとえられますか」
証 人「肥だめのにおいに似ています」
検察官「酪酸が顔にかかったと思いましたか」
証 人「はい」
検察官「どうして顔にかかったと思いましたか」
証 人「目とほほの痛みを感じて、ほぼ同時ににおいをかいだからです」
検察官「何か顔にかかった感触は?」
証 人「感じていません」
検察官「当時はヘルメットをかぶっていましたね。ヘルメットの前面にガードがあり、ガードを鼻のところまで下げていましたね?」
証 人「はい」
検察官「なぜ酪酸が顔にかかったといえますか」
証 人「もう1回、質問をお願いします」
《検察官が同様の質問を繰り返す。証人は1、2秒の間を開けてから、答え始める》
証 人「ヘルメットのガードと顔の間から(酪酸が)入ってきたと思いました」
検察官「『酪酸がかかった』と思い、どうしましたか」
証 人「その場でしゃがみ込みました」
検察官「目は開けられましたか」
証 人「開けられませんでした」
検察官「どのようなことを考えましたか」
証 人「『失明するかもしれない』と思いました」
検察官「Cさんに話しかけられましたね」
証 人「はい。『大丈夫ですか』と言われました」
検察官「何か答えましたか」
証 人「できませんでした。痛すぎて、それどころじゃなかったです」
《激しい痛みに襲われた○○さんは必死にコンパニオンの物陰に身を隠し、しゃがみ込んだという。検察官がその理由を尋ねる》
検察官「なぜ身を隠したのですか」
証 人「SSのボートにカメラマンがいました。(自分の姿を)撮影されたくないと思い、移動しました」
《海の男の意地を見せた○○さん。その後、Cさん(法廷では実名)に連れられ、シャワールームに移動し、目や顔を洗ったという。このシャワールームには27日の証人尋問で証言台に立ったAさん(同)や、Bさん(同)も来た。○○さん、Aさん、Bさんがシャワールームに到着した順番について、○○さんは覚えていないという》
検察官「Aさん、Bさんがなぜシャワールームに来たと思いましたか」
証 人「酪酸にやられたと思いました」
検察官「どうしてそう思ったのですか」
証 人「Aさんは顔が赤くなり、『痛い』と言って顔を洗っていました。Bさんも顔を洗っていました」
《証言台の○○さんを見つめるベスーン被告。その顔は無表情だった》






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