《環境保護を標榜(ひょうぼう)する米団体「シー・シェパード(SS)」元船長のピーター・ジェームス・ベスーン被告(45)が撃ち込んだ酪酸(らくさん)で、顔面を負傷したとされる調査捕鯨船団の男性乗組員への弁護側証人尋問が続いている》
《弁護人は、調査捕鯨船団の母船の船医とのやり取りを具体的に明らかにしようとしているようだ》
弁護人「お医者さん(船医)と直接話したのはいつですか」
証 人「ぼくが直接、話をしたのはけがをした2日後です」
弁護人「けがをした後、その日のうちに、船医さんと話をしなかったのですか」
証 人「はい」
弁護人「お医者さんからの措置は誰を経由して伝えられましたか」
証 人「よく覚えていません」
弁護人「どのような措置の指示を受けましたか」
証 人「目と顔を水で洗い流すように言われました」
弁護人「シャワールームでは、全身脱いで洗い流したんですか」
証 人「顔と目だけです」
弁護人「酪酸を浴びた後にもかかわらず、衣服まで脱がなかったのはどうしてですか」
証 人「ヘルメットと救命胴衣、合羽(かっぱ)の上は脱ぎました」
《弁護人の質問に証人がやや反論気味に答えた》
弁護人「シャワールームで洗顔した後はどうしましたか」
証 人「ブリッジに上がっていきました」
弁護人「何をするためですか」
証 人「そのときは特に何をするというわけじゃなく、上に上がっていきました」
《ベスーン被告は、熱心にメモを取っている》
弁護人「仕事に戻ったと理解していいですか」
証 人「はい。上がっていったら仕事をやっていたので」
《再び、弁護人は、船医と証人のやり取りに話を戻した》
弁護人「医師と直接話した2月13日のときも、写真は撮らなかったのですか」
証 人「撮っていなかったと思います」
弁護人「口頭で指示を仰いだということですか」
証 人「はい」
弁護人「お医者さんにみてもらうとき、口頭だけでは不安を感じませんでしたか」
《証人は考えているのか、少し沈黙してから口を開いた》
証 人「ちょっと分からないです」
弁護人「あなたが負った傷がもう治ったなと思ったのは、受傷してから何日後ですか」
証 人「かさぶたがとれたときには、もう大丈夫かなって思ったんですけれど、入港した後も、しばらくは跡は残っていたので。でも、そんなに心配はしていなかったです」
《弁護人は、証人が帰国後、日本での診察経過について具体的に尋ねていく》
《けがの診断のために、3月、医師の診察を受けにいった証人。痛みはなくなったが、右目には若干の違和感が残っていたという》
弁護人「着ていた合羽はどうしましたか」
証 人「捨てました」
弁護人「なぜですか」
証 人「酪酸のにおいがきつかったからです」
弁護人「洗ってとれなかったのですか」
証 人「とれないです」
弁護人「ヘルメットに、においはついていなかったですか」
証 人「ついていました」
《弁護人は、当時、証人が着用していたヘルメットについて尋ねていく。午前中の証人尋問で、証人が実際に付けてみせたものだ》
弁護人「先ほど着用したヘルメットは、あなたが着用したものですか」
証 人「はい」
弁護人「においは残っていましたか」
証 人「残っていません」
弁護人「あなたがほかの誰かとにおいを消したのですか」
証 人「2回洗ったのですけれど…。1回目はCさん(法廷では実名)が、2回目はぼくが洗いました」
弁護人「水で洗うのですか」
証 人「水と洗剤です」
弁護人「ヘルメットを洗わずにいれば、有力な証拠になったと思うのですが、そうは思いませんか」
《弁護人の質問に、証人は反論した》
証 人「正直、そういうときに、証拠を残すとかってことは頭にありませんでした」
弁護人「2月12日以降、船内でのガラス瓶の回収作業をあなたはやりましたか」
証 人「やっていないと思います」
弁護人「誰がやったか覚えていますか」
証 人「分からないです」
弁護人「その後、船内のにおいを消すために、何か特別な措置はしましたか」
証 人「消臭剤を置いて、あとは芳香剤をにおいのきついところに置きました」
弁護人「消臭剤は具体的にどこに置きましたか」
証 人「シャワールームに置いたのは覚えているんですが、後は覚えていないです」
《酪酸の後かたづけについての質問が終わったところで、質問者が別の弁護人に交代した。尋問は、ベスーン被告のランチャーが何を狙っていたかに移る》
弁護人「2月11日にランチャーを構える前に、ベスーン被告は何か手で投げていたのですか」
証 人「ベスーン(被告)が投げたのが何か分からないけれど、ボートから瓶みたいなものが投げ込まれたのは見ました」
《メモを取る手を止めていたベスーン被告が、再び、ペンを走らせ始めた》
《瓶のようなものが投げられたのを1回見たという証人。そのときには、投げられたものは、防護ネットに跳ね返されたという》
弁護人「ベスーン被告がランチャーを構えたとき、防護ネットを狙っていると思いませんでしたか」
証 人「ぼくは、ブリッジを狙っていると思いました」
《弁護人は、防護ネットの側に証人が立っている写真を法廷内のモニターに映し、ネットの高さを確認していく》
弁護人「赤黒いものが横切った、目で追えないほどではない、というのはあなたの証言ですね」
証 人「はい」
弁護人「このとき、あなたは目で追っていったんですか」
証 人「はい」
弁護人「目で追って行方を見失っていないですか」
証 人「ブリッジの横の通路で見えなくなるところまで目で追っていました」
弁護人「ずばり聞くけど、あなたが右上を見ていたのは何秒くらいですか」
証 人「分からないですけれど、5秒くらいです」
《ベスーン被告は振り返って、弁護人と何か相談している。『OK』という弁護人の言葉にうなずき、前に姿勢を戻した》
《検察官が再尋問を始めた。ランチャーの筒先がブリッジを向いていたことや、船医とのやり取りを確認していく》
検察官「ヘルメットを水と洗剤で2回洗った後、酪酸のにおいはしましたか」
証 人「はい」
検察官「最後に酪酸のにおいをかいだのはいつですか」
証 人「3月です」
検察官「どのような状況ですか」
証 人「海上保安庁に提出する書類として、(ヘルメットを)袋に入れたときはまだにおいがしました」
《証人は調査捕鯨から戻った後、改めて病院で診察を受けたという。診察に付き添ったという男性検察官が、その際の状況について尋ねた》
検察官「検察官である私が一緒に行ったことについて説明をしましたが、覚えていますか」
証 人「はい。『今回のこのけがで、傷害事件を立証できるかどうか確認したいので同席した』と」
《ここで、ベスーン被告が何かを手元のノートに書き、後方に座る弁護人に見せた。何かをしきりに訴えている》
検察官「診察した先生はどういうけがだと言っていましたか」
証 人「化学熱傷だと聞きました」
検察官「全治については?」
証 人「約1週間と言われました」
検察官「なぜ1週間か聞きましたか」
証 人「言われたんですけど、ちょっとはっきり覚えていません」
《ここで男性弁護人が「すみません、被告が一点確認してほしいと言っておりまして…」と発言の許可を求めた》
弁護人「インパルス銃は(使用した際に)どのくらいの音量がするかご存じですか」
証 人「……。小さい音ではないです」
《証人は少し考えるようにした後、答えた》
弁護人「音量は調整できるんですか」
証 人「できないと思います」
《ここで再び、ベスーン被告が男性弁護人に何か話しかける。小さな声でやり取りをした後、弁護人は「終わります」と質問を終了した。この後、左右の陪席裁判官が何点か質問をし、裁判長は約13分間の休憩を取ることを告げた。裁判長が「傍聴人の方はトイレに行って頂いても結構です」と言うと、何人かが席を立った》
「酪酸という確信なかった」 船医、診断の難しさ証言
《13分間の休憩をはさんで、午後2時45分に法廷が再開した。環境保護を標榜(ひょうぼう)する米団体「シー・シェパード(SS)」の抗議船「アディ・ギル号」元船長、ピーター・ジェームス・ベスーン被告(45)の手元には、ノートとボールペンが握られている》
《次に証人として出廷したのは、調査捕鯨船団の母船「日新丸」の◇◇船医(法廷では実名)だ。◇◇船医は、ベスーン被告がランチャーで酪酸(らくさん)入りの瓶を撃ち込んだ調査捕鯨船団の監視船「第2昭南丸」の乗組員に、「全治約1週間の化学熱傷」という診断を下している。船医は、赤いストライプのシャツに黒いズボンといういで立ちだ》
《偽証しないことを宣誓し、証言台に座った。多和田隆史裁判長が「答えるときはゆっくりはっきり、大きな声で答えてください」と説明した後、男性検察官が質問に立った》
検察官「証人は日新丸の船医ですね」
証 人「はい」
検察官「○○さん(けがをした第2昭南丸の男性乗組員、法廷では実名)の診断書を作成しましたね」
証 人「はい」
《ここで、法廷内の大型モニターに診断書が映し出された》
検察官「診断は、証人本人の学識や経験から下したものですか」
証 人「はい」
検察官「○○さんの診断結果は、全治1週間の化学熱傷ですね」
証 人「はい」
検察官「診断方法は、○○さんの写真の視診(目視による診断)、そして無線での問診ということでしたね?」
証 人「はい」
検察官「全治1週間の化学熱傷と診断した理由は何ですか」
証 人「(平成22年)2月11日に撮影された写真と、2月12日に撮影された写真による視診。そして、2月13日に本人に聞いた結果と、当時の傷のメカニズムから総合的に判断しました」
《船医は、はっきりと質問に答えていく》
検察官「今回見た写真のうち、全治1週間の化学熱傷と診断するにあたって、参考とした部分はどこですか」
証 人「左ほほ部の赤くなった部分と、中心部の水疱(すいほう)とみられる状態から化学熱傷と判断しました」
《女性通訳は、証人に専門用語などについて確認した後、英語でベスーン被告に伝えた》
検察官「全治1週間と判断した理由は?」
証 人「大部分が赤くはれていました。また、中心部に水疱とみられるものがあったことなどから、比較的軽度と判断し、1週間で治癒するのではないかと思いました」
《ここで、検察官の主尋問は終了。代わって男性弁護人が質問に立った》
弁護人「診断書の日付は平成22年2月24日となっていますね」
証 人「はい」
弁護人「全治1週間と診断したのはいつですか」
証 人「2月23日です」
弁護人「2月23日に診断して、診断書を2月24日に作ったのはなぜですか」
証 人「当初、出した診断書には『酪酸と思われる化学物質で受傷した。受傷直後から目が痛くなったので、化学熱傷だと思われる』と事実のみ書きましたが、『もう少し詳しく書いてくれ』と請求されたためです」
弁護人「請求は誰からされたのですか」
証 人「調査団です」
弁護人「具体的に言うと?」
証 人「鯨類研究所です」
弁護人「診断書の中に、『化学物質の詰められた瓶』とありますが、この化学物質とは何ですか」
証 人「液状の物質です」
弁護人「具体的な物質名は?」
証 人「酪酸ということを聞いていましたが、私はその物質が酪酸と確信していないので、『液状物質』と書きました」
弁護人「聞いたのは誰からですか」
証 人「D船長(法廷では実名)です」
《乗組員のけがの原因については、「ベスーン被告が撃ち込んだ瓶に入った酪酸」とする検察側に対し、弁護側は「乗組員が持っていたインパルス銃から発射された液体」である可能性を指摘しており、主張が真っ向から対立している。このため、船医の判断に注目が集まっている》
弁護人「証人の専門は外科ですね」
証 人「はい」
弁護人「あなたは22次と23次の(捕鯨調査団の母船の)日新丸の船医を務めましたね」
証 人「はい」
弁護人「やけどの診察は、1度の航海の中で1回から数回あったと検察官に述べていますね」
証 人「はい」
《ベスーン被告は少し身を乗り出すようにしながら、証言を見守っていた》






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